アメリカの教育と奨学金(1)留学生がアメリカで獲得できる奨学金とは

 マーセッド大学では、今年も恒例となっているコミュニティ基金が主催する奨学金受賞者の募集が実施され、留学生を含む多くの学生が推薦状とエッセイを携えて、申し込みを行った。1万人以上を擁するマーセッド大学の全学生に応募資格がありながら、昨年には3名の日本人留学生が同奨学金を受賞し、留学生にとっても大学主催の奨学金獲得は身近なものとなっている。

 日本ではようやく給付型奨学金の導入について議論が始まったものの、学生が利用する奨学金は貸与型のものがメインとなっている。アメリカでは、「貸与型の奨学金」という言葉自体が存在せず、返還義務のあるものは全て「学生ローン」あるいは「借金」と呼ばれる。

 

 

アメリカという国の教育に対する姿勢

資料:OECD Education at a Glance 2014
資料:OECD Education at a Glance 2014

 右の図を見ても明らかなように、アメリカ政府自身が給付型の奨学金を積極的に提供することで、誰もが教育にアクセスできるように機会を分配する積極的な姿勢が伺える。そして何より、この姿勢こそがアメリカにおける質の高い教育を維持しているのだ。

 一方で、そもそもアメリカの大学は学費が高額であるというイメージを持つ人も多いことだろう。だがその学費の高さは、一部の有名大学に限られる。多くの学生たちはマーセッド大学のような地元のコミュニティカレッジや州立大学に通い、Financial Aidと呼ばれるアメリカ人学生向けの奨学金を受けながら高等教育を受ける機会を享受している。一度就労した後や子育てを終えた後に学校へ戻る人々も多く、教育の機会均等を目指すアメリカの姿勢が、大学に多様性をもたらしている。

 こうしたシステムは、留学生にとっても魅力的なもので、学費の安いコミュニティカレッジから留学を開始し、4年制大学へ編入、留学生向けの奨学金やスポーツ奨学金を得ることで4年間の学費を大幅に抑えることが可能となる。

 

 

 以上のようなアメリカという国の教育に対する姿勢とは裏腹に、そうしたアメリカのシステムや文化が日本の学生の中に浸透していないという印象は拭えない。そこで、今回はマーセッド大学で獲得できる奨学金や授業料免除を始め、留学生が利用できる奨学金について紹介していきたい。

 

 

①大学主催の奨学金

 マーセッド大学では、毎年全学生を対象とした大学主催の奨学金給付が行われている。昨年は160を超えるコミュニティの基金から、総額2,000万円以上の奨学金が提供された。多くの奨学金には、GPA(授業評点)によって応募制限がかけられており、すべての奨学金への応募に際してエッセイの提出が義務付けられているため、普段からの学生自身の取り組みが問われる。

 マーセッド大学はコミュニティカレッジと呼ばれる2年制大学で、地域の住民や大学OB・OGとの繋がりが強く、こうした基金から奨学金を通して、地元の人々が若い学生やキャリアアップを目指す学生を支援できる枠組みが備わっている。

 

 また、留学生も受給対象となる点が、アメリカという国の懐の深さを現している。前述のように、昨年は3名の留学生が奨学金を獲得し、秋にはそれぞれの留学生が4年制大学へ編入している。

 

 

②留学生向け授業料免除

 また、マーセッド大学では、留学生の手続きやサポートを担当するISS (International Student Service)オフィスが、留学生向けの授業料免除制度を設置しており、マーセッド大学に在学する留学生にとっては、大きな助けとなっている。上記の大学主催の奨学金同様、成績とエッセイの内容が吟味される上、ホストファミリーや教員からの推薦状の提出が求められる。採用者には数単位分の授業料免除が認められ、この授業料免除制度だけで、1セメスターの授業料を約半額分に抑えることが可能となっている。

 

 

③スポーツ奨学金

 マーセッド大学では多くの留学生が勉強と同時にスポーツチームに所属し、部活動に打ち込んでいる。多くの留学生が、スポーツ奨学金を獲得しての4年制大学編入を目指しているのである。これまでに、陸上部所属の留学生が3大学から奨学金のオファーを受け、野球部の留学生が野球奨学金を獲得しての編入を実現するなど、マーセッド大学のスポーツ留学を通しての奨学金獲得は実績十分である。

 現地の学生でもプロを目指すわけではなく、より良い教育を受けるためにカレッジでスポーツに打ち込み、奨学金獲得を目指す学生は多い。以前当コラムでも紹介した通り、メジャーリーグ球団からのドラフト指名を断り、奨学金を獲得して名門大学へ進学する学生アスリートも珍しくはない。

 一方で、こうしたスポーツ奨学金においても、スポーツに打ち込んでいればオファーが届くという甘い話ではなく、学業においても結果を出さなければ奨学金のオファーを獲得できない。こうしたバランス感覚こそがアメリカの教育を下支えしているのだ。

 

 

④民間団体による奨学金

 最後にご紹介するのが、企業などの民間団体が主催する奨学金制度である。YESの有するSAKURA SCHOLARSHIP制度からも、留学生への奨学金の授与が行われており、やはり成績優秀であることが条件だが、将来に対する志向や人間性も考慮される。

 アメリカでは毎年、「スカラシップブック」と呼ばれる全米中の奨学金情報を網羅した書籍が発売され、奨学金獲得を目指す学生のマストアイテムとなっている。留学生でも、こうした書籍を購入し、民間団体の奨学金に申し込みを行う学生はおり、こうした努力と取り組みは留学生の中で徐々に広まっている。

 

 

 以上のように、留学生とっても奨学金を獲得できる機会は少なくない。一方で、留学生にとってのアメリカの奨学金制度は、日本の貸与型の奨学金制度のように消極的に利用するイメージはなく、常に奨学金の情報や与えられる機会に対してアンテナを張り、自ら獲得していくものでもある。

 では、留学生たちはどのようにして奨学金を獲得してきたのか、次回は、アメリカの奨学金が充実しているその理由と共に、アメリカでの奨学金獲得に求められるものについて紹介する。

 

 

 


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