池田さんは現在、MLBロサンゼルス・エンゼルス傘下3Aでヘッドアスレチックトレーナーを務めている。
アスレチックトレーナーという仕事は、選手のケガやコンディション管理に関わる専門職として知られているが、実際の現場ではそれ以上に幅広い役割を担っている。後半の記事では、池田さんの話をもとに、MLB球団におけるアスレチックトレーナーの役割や日常、そして仕事に対する考え方を紹介する。(前半の記事はこちら)
MLBにおけるアスレチックトレーナーの役割
MLB球団におけるアスレチックトレーナーの役割について教えてくれた。
「各レベルにストレングス&コンディショニングコーチという役職の方がいて、彼らが基本的には「100%の選手を120%にする」仕事をしています。僕らはどちらかというと「80%から100%を出させる」仕事。あとは理学療法士がリハビリ施設にいて、手術や大きな怪我をした人を野球ができるところまで持っていく。それぞれの役割で常にコミュニケーションを取り合って、データの共有などは常に行っています。数字は常に使っています。数字がない状態でリハビリをやっていくと、結局その根拠が薄くなってしまうので。やっていることに根拠を持たせるために数字を使うというのはよくやります。」
選手、監督、コーチ、理学療法士、ストレングス&コンディショニングコーチと同じ選手を見るからこそ、数字を用いて認識にぶれがないようにしていくという。
トレーナーとして心がけていること
4年前にエンゼルスに入団したころは、6軍のトレーナーからスタートした池田さん。それが現在では2軍に相当する3Aでヘッドトレーナーを務めている。その池田さんがトレーナーとして心がけていることを伺った。
「業務としてはコミュニケーションを逃さないことを大切にしています。必要なことは上にも下にも伝える。個人としては常に学ぶ立場でいたいと考えています。この業界は常に新しいものが出るので、忙しいのを言い訳にせず、学び続ける。あとは自分より年下からも、25年以上プロでやっている大ベテランからも、役職に関係なく謙虚に学びたいと思っています。今の3Aという立場は、自分の仕事が数字で直接出るわけではないので、その分周囲からの信頼が全てだと思っています。」
また、アスレチックトレーナーとして、1軍のメジャーの舞台に到達するまで10数年かかると言われる世界で4年で3Aレベルで活躍できるまでに至ったことについて語ってくれた。
「僕の場合は、運とタイミングもあったと思います。やっぱり上が空かないと下は上がれないですから。新しいポジションができたり、上の人がチームを去ることになったりというタイミングで、運良く選んでいただいて上がれているという感じです。もちろん自分の仕事はちゃんとしているつもりですが、仕事をするだけで上がれるというわけでもないと思います。」
そして、エンゼルスのチームの現状も踏まえて以下のように話してくれた。
「球団が投資してくれているんだと思います。過去に何十年もやっている人をそのポジションに置けば、組織として安定するはずなのに、あえて僕にしてくれた。そこは感謝していますし、期待に応えたいです。また、エンゼルスという球団は、今は改革のタイミングだと言われています。僕自身もその改革の中にいる一人かもしれません。選手の入れ替わりも激しいですし、19歳くらいの若いプロスペクト(有望株)を積極的に上に上げて学ばせる。自分もその歯車として、球団がうまく回るように貢献したいです。今の球団には恩もすごくありますし、今の球団でメジャーに行けるのが一番の目標ではあります。」

シーズン中の一日
シーズン中の一日の流れについては、以下のように答えてくれた。
「基本的にナイトゲームが多いので、大体昼の12時ごろに職場に行きます。1時くらいから仕事が始まるので、その前にコーチやマネージャーとのミーティングを済ませます。練習が始まる前に治療やリハビリ。データを見て怪我の予防のためのケア。練習中はフィールドに出て、何かあってもすぐ対応できるようにします。試合前は、出場する選手のケア。あとは相手チームのトレーナーや救急救命士の方と、もし何かあった時のサインなどのコミュニケーションを確認します。
試合が終わったらレポートを提出したり、必要であれば治療もしますが、日本に比べるとアメリカのほうが早く帰るかもしれません。「ケアをして睡眠不足になるのが一番もったいない」という考え方で、睡眠が一番のリカバリーだと信じているので。必要以上に無駄に残らないようにしています。」
理想のトレーナー像
そして、池田さんが理想とするトレーナー像について伺った。
「技術はもちろんですが、選手にとってもコーチにとっても球団にとっても「いいチームメイト」でありたいです。ダメなことはダメと言いつつ、全ての人のために良い結果が生まれるように動ける人。ミス・コミュニケーションがあった時に間に入って物事を円滑に進められる、そんな人を目指しています。」
トレーナーを目指す人へのアドバイス
最後にこれからアスレチックトレーナーを目指す人たちへのコメントを残してくれた。
「アスレティックトレーナーを目指す人は多いですが、みんなが残れる環境ではないのが現実です。だからこそ、自分のなりたい姿を常に頭に置いておくこと。そして選択を迫られた時に、どの道が自分のゴールに近いかを考えて選ぶこと。それがモチベーションの維持にも繋がります。すでにそのポジションにいる人にコンタクトを取って話を聞いてみるのもいいと思います。私自身も今アスレティックトレーナーを目指している学生たちにも、僕が学生の時に先輩方からアドバイスをもらったように、少しずつ還元していけたらなと思っています。」
池田さんの話からは、アスレチックトレーナーという仕事が、選手の身体を支えるだけでなく、チームの中で多くの人と連携しながら信頼を築いていく仕事であることが伝わってきた。
専門知識や技術だけでなく、現場で必要とされるのは、日々の積み重ねや周囲とのコミュニケーション、そして学び続ける姿勢である。そうした姿勢が、現在の池田さんの仕事につながっている。
この記事がスポーツの現場で選手を支える仕事に興味がある学生にとって、具体的なイメージを持つきっかけになることを願っている。

